刺繍作家 高嶺 尚子

  • facebook
  • instagram

日記

2020.10.12

新作「よるふかく」

 

 

 

 

 

新作の「よるふかく」が完成しました。額は太衣サイズ(509×394)です。夫とむすめと過ごす何でもない日々、だけど「彩る日々」をテーマに絵を描き続けています。「よるふかく」もそのテーマの中の1枚です。

 

自分が若かった頃、学校やアルバイトで遅くなった帰りの電車の中から、カーテン越しにボワッと漏れる家々の窓の淡い光を、ぼんやり眺めるのが好きでした。カーテンの色や厚み、天気によっても色が少しずつ変わって、それらはとてもきれいな模様に見えました。いつかそんな夜の景色を絵に描きたいと、ずっと思っていました。

 

今作は、念願の夜の風景を描いてみようと鉛筆を握りましたが、思い描いていた夜がなかなか描けません。心に残っている夜の景色と、日々過ごす今の夜があまりにも遠かったからです。

 

現在、わたしが見ている夜は、きれいな灯りでも淡い光でもなく、むすめとむすめのぬいぐるみ達が作り出す、静かだけど激しい、可愛いけど怖ろしい、薄暗がりの奇妙な世界です。

 

むすめは、お気に入りのぬいぐるみやバルーンを寝室に持って行き、思う通りに並べて眠ります。1日の製作を終えて寝室に向かうと、むすめが抱きしめていたはずのぬいぐるみが、むすめの枕になっていたり、足元の方から出てきたり、枕元で転がっていたはずのぬいぐるみが立ち上がっていたり、どれも奇想天外な動きをします。いざベッドに潜り込もうとすると、むすめとぬいぐるみ達に陣取られ、完全にわたしの寝る場所がないこともあります。

 

そして、全身スパンコールのウサギや、ベッドの下に並べているスティックバルーンが、常夜灯に照らされて常に不気味な光を放っています。可愛いものに囲まれてむすめは幸せそうに寝ていますが、わたし達の寝室はホラーに近い世界です。むすめの可愛い寝顔がなければ、安眠できないようなただならぬ雰囲気です。

 

この絵を製作している間にも、さらにメンバーが増えて、賑やかしく動きも激しくなっています。むすめが1人部屋で眠るその日まで、寝場所を巡る深夜の攻防戦を制することができるよう、強い気持ちを持って、可愛いもの達に抗っていこうと思います。